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同州では州内で事業を行わない限り、州の所得税が課せられずまた申告義務もない。
支払うのはフランチャイズ・タックスと呼ばれる低額の税金のみであり、NYSEに上場する企業の17%前後は本拠地をデラウェア州に置いているといわれる。 タックス・ヘイヴンは、そもそも産業育成が厳しい地域に生まれたものであるが、それがマネーロンダリングや脱税などに利用されることも増加し、現代では強い批判の眼に晒されている。
OECDがリスト作成に着手したのもその一環であり、日本でもタックス・ヘイヴン対策税制などが導入されて、違法な税金対策を防止するための施策が行われている。 タックス・ヘイヴンの存在は、脱税、マネロン、税の不公平など社会的観点から厳しい眼で監視されているのである。

だが、タックス・ヘイヴンを世界から一挙に消滅させることは、それに代わる産業をもたない地域や国の経済事情を考えれば、現実には難しいところがある。 一方で、ヘッジファンドなどのように新しい金融を牽引するプレーヤーは、むしろタックス・ヘイヴンを最大限に利用しようとしている。
国際金融のなかでタックス・ヘイヴンは、すでにインフラに埋め込まれた貴重な部品として、取り除けば逆にシステムが稼動しなくなるという一種の必要悪のような存在になっているともいえる。 国際金融において本格的にタックス・ヘイヴンが利用されるようになったひとつの契機は、資金調達のための債券発行開始である。
たとえば日本の銀行がユーロドル債を発行するにあたって、バミューダ諸島やケイマン諸島などに現地法人を設立してそこが発行体になるのである。 タックス・ヘイヴンの企業なので、債券発行に関して支払う利子には税金がかからない。
ちなみに私が以前に勤務していた邦銀でドル債発行の業務に携わったときには、オランダ領アンティル諸島のキュラソーにある発行体を使って資金を調達した。 1980年代以降には、こうした仕組みを応用して、デリバティブなどを使った仕組み債と呼ばれる無数の有価証券が、タックス・ヘイヴンに設立されたSPC(特別目的会社)を通じて発行されるようになる。
もちろん、源泉徴収されないとはいっても、投資家はその居住国の法制・税制にもとづいて法人税や所得税を課されることになる。 さらにキャピタルゲインも非課税になるタックス・ヘイヴンは、ファンド運用などの拠点としても利用されるようになった。
前述したヘッジファンドだけでなく、ミューチュアル・ファンドやプライベート・エクイティ・ファンドなども、物理的な拠点とは別に登記上の拠点をケイマン諸島などに置くことも少なくない。 金融ビジネスでは、タックス・アービトラージ(税制裁定)といった言葉も生まれるほど、いかに税率の低い場所を活用するかがひとつの事業戦略になったりするが、それは税務当局の警戒感を強める結果にもなっている。
巧妙な節税と悪質な脱税は紙一重という指摘が増えているのは事実である。 タックス・ヘイヴンを売り物にする地域では、明らかな不正行為やテロ関連の取引、マネーロンダリングなどに関しては、国際社会に配慮する姿勢を見せているものの、純粋な経済取引に関しては、これをいかにつなぎとめるかは死活問題である。
最近では、金融市場の主流派に躍り出たさまざまなファンドを誘致することが大きな商機になっている。 現在、タックス・ヘイヴンとして、最も多くの金融取引を惹き付けているといわれるケイマン諸島には、SPCだけではなく実際の銀行やキャプティブと呼ばれる保険業も数多く進出しており、観光業とともにケイマンの経済を支えている。
またケイマン諸島と並んでタックス・ヘイヴンとして有名なバミューダ諸島も、観光と金融によって経済的な自立性を確保しており、政治的にも安定している。 一方で、2008年には R がドイツ産業界の経営者らの脱税の窓口になっていたことも明らかになった。
タックス・ヘイヴンはたしかに他国での税収減や不正行為を招く温床になりがちだが、考えようによっては「自然環境を破壊しないで生活水準の向上が図れる」という結果を生んでいるといえなくもない。 タックス・ヘイヴンと税務当局とは常に利害が対立する緊張関係にある。
だが低率税制の存在が金融取引を活性化させた結果として税収が増えたという可能性もある。 逆にいえば、税制変更が金融取引を収縮させて税収を減らす可能性がないとはいえないのである。

投機を抑制させるためのトービン税の導入が、市場を収縮させて経済成長の制約要因になると反論されているのも、この議論と似ているところがある。 アイルランドは、税制を利用して金融産業を誘致しそれを経済成長のエネルギーにしようとしたひとつのケースである。
1922年に英国から独立したアイルランドは主要産業も資源も乏しく、国民の海外移住も増えてその経済発展は大きく立ち遅れていた。 それが1990年以降急転換し、アイルランドは急速な経済成長を遂げることになる。
そこにタックス・ヘイヴン戦略の効果があったのは疑いない事実である。 アイルランドは国際金融サービス産業の一大拠点を創設する目的で、1987年にIFSCを設立した。
資金運用、保険、外国為替取引、証券取引・仲介業務などを対象に税制上の優遇措置を与えるものであり、一時は英国のシティの地位を脅かすのではないかと職かれたこともあった。 結果的に、ファンド管理のビジネスが増加するなどその優遇税制は実を結んだようだが、実際にアイルランド経済の急成長を引き出したのは工業力を背景とする輸出であった。
金融同様に優遇税制を与えられたハイテク産業などにおいて、多くの米国企業が欧州拠点をアイルランドに移転したことがその背景にある。 英語が通用するという環境も最大限に活かされたのであろう。
GDPに占める産業構造も、主役は農業から工業に移り、アイルランドは税制を利用した工業国に生まれ変わっていった。 当初期待されていた国際金融ビジネスも、ある程度は経済構造の改革に寄与したものと見られるが、やはり英国シティの補完的役割以上の役割を果たすのは難しいようだ。
このアイルランドの戦略を2002年に導入された沖縄県名護市の金融特区に応用しようとした動きもあったが、同特区では所得税の優遇が当初、雇用別名以上という厳しい条件を付されていたために、予想されたほどの雇用増などの効果を生み出すには至らなかった。 日本ではタックス・ヘイヴンに対する警戒感が強く、税制を利用した金融業の展開だが、アジアでの金融ビジネス誘致競争は激化の一途を辿っている。
その一例が、香港とシンガポールの間でのヘッジファンドの誘致合戦である。 どちらも優遇税制を背景に新しいビジネスの取り込みに熱心であるが、欧米市場からアジア市場にも運用の場を拡大しているファンドは言わば「旬のビジネス」である。

先行したのは香港であったが、シンガポールは税制だけでなく規制も緩和して、新規設定ファンドを積極的に取り込もうとしている。 その結果、日本市場を対象に運用するファンドも、シンガポールに拠点を置くのが一般的である。

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